この頃の、相続手続きの進め方・相続関係図の作り方
相続手続きは複雑で手間がかかるものと言われていますが、近年の制度改正により少しだけ改善が図られています。本稿では、これらの手続きに役立つ情報をご紹介します。
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戸籍謄本の広域交付制度
従来の戸籍取得の煩雑さ
相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)を収集する必要があります。そのため、被相続人が本籍地を転々と変えた場合などは収集するのが非常に大変でした。
例えば、被相続人が東京生まれで大阪、名古屋と本籍を動かし、最終的に福岡で死亡した場合、東京、大阪、名古屋、福岡の4つの役所から戸籍を取り寄せる必要がありました。これには、交通費や郵送費がかかり、さらに時間もかかります。特に、遠方の役所に出向かなければならない場合は、日程調整や移動の手間も加わり、費用や時間が負担となります。
出生から死亡までの戸籍が最終本籍地で一括取得可能に
このような不便さを解消すべく、令和6年3月1日から戸籍謄本等の広域交付制度が施行されています。出生から死亡までの戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)が、最終本籍地の役所で一括して取得できるようになりました。
つまり、上記の例でいえば、福岡の役所で被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が一括で入手できるようになったのです。これにより、遠方の本籍地に足を運ぶ手間が省け、相続手続きが効率化されました。
ただし、注意点として以下の点があります。
・戸籍証明書等を請求できるのは、市区町村の戸籍担当窓口に本人が出向いて請求する必要があり、郵送や代理人による請求はできません。
・本人以外の戸籍証明書等も請求できますが(子、孫、父母、祖父母など、夫又は妻は可能)、兄弟のものは取得できません。
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法定相続情報証明制度で戸籍提出の手間が軽減
従来の戸籍提出の煩雑さ
従来は相続手続きの都度、戸籍謄本を各所で集め、この束を各機関に提出し、手続き終了後に原本の還付を受ける必要がありました。
例えば銀行の手続きでは戸籍謄本の束を提出し、手続き終了後に原本を返却してもらう、という作業を行っていました。この作業を、手続が必要な全ての機関にしなければなりませんでした。また、原本還付を受けないのであれば、手続きする機関の数だけ、戸籍謄本を揃える必要がありました。
法定相続情報一覧図で提出手間が大幅に軽減
平成29年5月に法務局により「法定相続情報証明制度」が開始され、この戸籍提出の手間が大幅に軽減されています。
この制度では、法務局に戸籍謄本を提出することによって、登記官の認証を受けた「法定相続情報一覧図」の写しが交付されます。この一覧図1枚があれば、戸籍謄本の束と同等の効力があり、相続登記や銀行の解約手続きなど様々な相続手続きに使用できます。これにより、複数の機関に同じ書類を何度も提出する手間が省け、手続きのスピードアップが期待できます。
さらに、一覧図の写しでも戸籍謄本と同等の効力があり、無料で交付されるため、戸籍謄本の取得費用も大幅に削減できます。この制度により、戸籍謄本を各機関に提出する手間が省け、相続手続きがよりスムーズになりました。
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法務局ウェブサイトを利用した相続人関係図モデルの活用
相続人関係図の作成が容易に
法務局のウェブサイトでは、法定相続情報一覧図のモデル図データがpdf、エクセルで公開されています。この図は、被相続人と法定相続人の関係を示し、誰が法定相続人であるかを一目で把握できるよう、視覚化したものです。
・法定相続人が配偶者及び子である場合
・子が多数の場合
・法定相続人が子のみである場合
・代襲相続が生じている場合
などなど、様々なパターンが掲載され、詳細な記載例がpdf、エクセルで整備されています。エクセルに記入・改変して作成すれば、簡単にきれいな相続人関係図を作成できます。
なお、正確に書ければ、手書きでも構いません。エクセルが苦手であれば印刷して手書きで改変すると良いと思います。
このファイルは、法定相続情報証明制度を利用するためのものですが、「法定相続人」を示すだけでなく、改造すれば相続人関係図作成に使うことができます。例えば、遺産分割調停申し立てに添付する図面として使用することなどができます。
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さいごに
相続手続きは複雑で面倒なこともありますが、上記の制度改正により一定程度効率化が図られています。戸籍謄本の一括取得、法定相続情報証明制度の活用、法務局ウェブサイトの相続人関係図モデルを利用すれば、限定的ではありますが、以前よりは相続手続きを進めやすくなったと言えるでしょう。
一方で、自身で手続きするのが難しいという方は、専門家に相談するのがおすすめです。当事務所では、相続の経験豊富な弁護士による、相続手続き代理もお受けしております。きめ細かいサポートを心がけております。お困りの際は、お気軽にご相談ください。