2018年6月20日(水)
建物の無償使用と特別受益
第1 建物の無償使用と特別受益
被相続人の生前、被相続人が所有する建物に相続人が無償で居住していたという場合、その賃料相当額は、特別受益になるのでしょうか(そもそも特別受益とは何かについては、こちらのページをご参照ください)。
相続人が建物に無償で居住しているケースは、大きく2つに分けることができます。1つは、相続人に独立の占有が認められる場合、もう1つは、相続人が占有補助者となる場合(相続人に独立の占有が認められない場合)です。
以下、場合分けをして考えていきましょう。
第2 相続人に独立の占有が認められる場合
例えば、被相続人が同居しておらず、相続人がその家族と一緒にその建物で生活をしている場合です。
この場合は、基本的に、建物の賃料相当額は特別受益にならないと考えられています。
その理由としては、①建物の使用貸借は、恩恵的要素が強く、遺産の前渡しとは評価し難いこと、②建物の使用借権(=無償で他人の物を借りて利用する権利)は、第三者(例えば、被相続人からその建物を購入した人など)に対抗することができず、明渡しも容易で、経済的価値がほとんどないこと、③賃料相当額自体を合計すると相当多額となり、遺産の総額と比して過大になりがちであることなどが挙げられています。
第3 相続人が占有補助者となる場合
例えば、相続人が建物において被相続人と同居しており、単なる占有補助者であって、独立の占有権原が認められない場合です。
この場合、そもそも相続人に使用借権があると認められないことから、特別受益にはならないと考えられています。
特に、被相続人がその相続人との同居を希望したため同居していた場合、被相続人の療養看護・生活支援のために同居していた場合、家業従事の都合から同居していた場合などには、相続人が利益を得ていたとはいえず、特別受益には該当しないといえるでしょう。
第4 おわりに
遺産である建物に相続人が無償で居住していたというケースはよく見られますが、上記のとおり、無償で居住していたからといって、その賃料相当額を特別受益として評価することは難しいと言うのが実情です。
なお、上記の説明は、あくまでも、被相続人の生前に、同人が所有する建物に無償で居住していたことをどう考えるかという問題ですので、被相続人の死後に、遺産である建物に無償で居住していることは、別途検討を要することに事項になります。ご注意ください。
(勝本)