2017年4月10日(月)
添え手による補助を受けた自筆証書遺言の効力
1 事例
Aさんは,高齢で,病気の後遺症があるため,手がひどく震えるようになってしまいました。
また,目が悪いため,字がよく見えず,一人で上手に字を書くことが困難な状況にありました。
Aさんは妻に後ろから添え手をしてもらい,手を動かし,自分の子供たちと妻に相続させる内容の自筆証書遺言書を作成しました。
筆跡はやや乱れていますが,遺言の内容は単純で,特に妻のみが有利になる内容ではありませんでした。
この自筆証書遺言書は有効でしょうか?
2 自書性
自筆証書遺言については,全文の自書,署名,日付が要件となっています。
なぜ,自書が要件になっているかというと,筆跡によって,本人が書いたものであることが判定でき,それ自体で遺言が遺言者の真意によるものであることを保障するから,といわれています。
したがって,タイプ打ち,コピー,ワープロなどによるものは自書にあたらず,効力は認められません。
3 自書能力
遺言書を作成するのは高齢者が多いため,添え手を必要とする場面は結構あるようです。
では,上記のように,遺言者自身が筆記しているものの,他人の補助 (添え手) を受けていた場合はどうなるのでしょうか。
Aさんに自書能力があるといえるのでしょうか。
これについては,判例(最高裁昭和62年10月8日)があります。
自書能力とは,遺言者が文字を知り,かつ,これを筆記する能力であるとされています。
そして,「自書」を要件とする法の趣旨に照らすと,
病気その他の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は,
①遺言者が証書作成時に自書能力を有し,
②他人の添え手が,単に始筆若しくは改行にあたり,若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くことにとどまるか,又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており,遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり,かつ
③添え手が右のような態様のものにとどまること,すなわち,添え手をした他人の意思が介入した形跡がないことが,筆跡のうえで判定できる場合
には「自書」の要件を充たす,としました。
したがって,事例の場合,妻の添え手は,Aさんの筆記を容易にするために補助しただけであり,有効ということになります。
(関口)