2016年12月7日(水)
相続分がないことの証明書(特別受益証明書)
1 相続分がないことの証明書(特別受益証明書)とは
「相続分がないことの証明書」(「特別受益証明書」ともいいます)という文書がつくられる場合があります。
これは,「自分は,被相続人から生前贈与などにより特別受益を受けたので,(自分の)相続分はありません」という趣旨を記載した書類です。
この書面は,相続登記の申請や相続税申告などで実務上用いられています。
例えば,一人の相続人に不動産を相続させたい場合,他のすべての相続人に「相続分がないことの証明書」に署名押印してもらい,これを添付書類として相続登記の申請を行い,被相続人名義の土地を一人の相続人の単独名義にする場合などがあります。
この書面を使えば,相続放棄の手続(原則として相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所に対する申立てが必要です)や遺産分割の話し合いを経ることなく,簡単に特定の相続人に相続財産を集中させることができます。
遺産分割協議は,全員の協議が必要なところ,この書面を多くの他の相続人に送付し,署名押印をもらい(実印使用。印鑑証明書を添付)返送してもらえば,手間が省けるというメリットがあります。
したがって,事実上,簡単に相続放棄をさせるのと似たような効果があることから,「事実上の相続放棄」とも言われます。
2 相続分がないことの証明書(特別受益証明書)の問題点
「相続分がないことの証明書」には,以下のような問題点があるので注意が必要です。
(1)相続分がないことの証明書は,(家庭裁判所への手続きである)相続放棄とは異なり,この証明書を作成しても,作成者が相続人であることには変わりがないこと
(2)相続分がないことの証明書を作成する側が,ほんとうの意味を理解しないで署名押印をする場合があること
相続放棄は,家庭裁判所に対して申立てを行い,相続放棄を認める審判がなされます。相続放棄が認められると,申立人は相続開始から相続人ではなかったことになり,相続関係から全く離れることができます。
また,その子どもが相続を引き継ぐ代襲相続も行われません。
これに対して,「相続分がないことの証明書」を作成しても,相続人であることには変わりがないので,相続債務(借金)があるときは,それだけ相続することになります。
したがって,プラスの財産はもらえないが,マイナスの財産だけは引き継ぐという効果になります。
被相続人の債権者から債務の弁済を求められた場合,支払義務が残りますので,注意が必要です。
ほんとうの意味とは,このように相続放棄とは異なること,すなわち,共同相続人の間で,遺産分割を行うことを前提に「自分の取り分はない,要りません」という意思表示を行っていること,ということです。
このことをよく理解せずに,「相続分がないことの証明書」を作成してしまった場合,のちのちトラブルになりかねません。
したがって,「相続分がないことの証明書」を他の相続人に作成してもらう場合には,十分な説明が必要ですし,作成する側はその意味と効果を十分に理解してから署名押印しなければなりません。
共同相続人から,このような書類に署名押印して返送してくれ,と頼まれて,よくわからない場合は弁護士に相談されると良いでしょう。
(関口)