2016年7月18日(月)
特別受益と死亡保険金
1.特別受益とは
共同相続人の中に、被相続人から遺贈(遺言によって贈与を受けること)を受けたり、生前に贈与を受けたりした者がいた場合に、相続に際して、この相続人が他の相続人と同じ相続分を受けるとすれば、不公平になります。
そこで、このような不公平を解消するための制度が特別受益の制度です(民法903条)。
例えば、親が子に不動産を贈与したり、不動産取得のための金銭の贈与をしたりした場合に、特別受益にあたりうることになります。
特別受益にあたると、被相続人の相続開始時の財産額に特別受益額を加えたものを遺産とみなし(みなし相続財産)、特別受益者の相続分は特別受益額を控除した残額になります。
わかりにくいと思いますので、具体例に沿ってご説明します。
例えば、Aさんが亡くなり、妻Bさんと子のCさんが相続することになったとします。
そして、遺産は2000万円あり、Cさんは、自宅に使う不動産の購入資金としてAさんから1000万円の贈与を受けていたとします。
このとき、Cさんが贈与を受けた1000万円が特別受益にあたるとすると、この1000万円は遺産にみなされることになります。つまり、みなし相続財産は、2000万円+1000万円で3000万円ということになります。
次にこの3000万円を遺産として法定相続分通りに分割すると、妻Bさんが1500万円、子Cさんが1500万円を取得することになりそうです。
しかし、Cさんは、既に1000万円の贈与を受けていますから、1500万円からこの1000万円を差し引いて、結局Cさんが取得する額は500万円ということになります。
したがいまして、最終的には、2000万円の遺産のうち、Bさんが1500万円、Cさんが500万円取得することになります。
ちなみに、このように特別受益額を遺産とみなし、特別受益者の相続分から控除することを、特別受益の持戻しといいます。
2.死亡保険金は特別受益にあたるか
では、死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は、特別受益にあたるでしょうか。
これは、被相続人から生前に贈与を受けたものではないので、原則として、特別受益にならないとされています。
もっとも、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき「特段の事情」が存する場合には、同条の類推適用により、死亡保険金又はこれを行使して取得した死亡保険金は、特別受益に準じて扱われるとされています。
では、この「特段の事情」の有無はどのように判断したらよいのでしょうか。
この点につき、最高裁判所は、「特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」と判示しています(最高裁判所第二小法廷決定平成16年10月29日)。
3.まとめ
以上のように、死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は、原則として特別受益にあたりませんが、例外もありえます。
死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金が存在するときは、特別受益にあたりうることを頭の片隅に置いておきましょう。もし、一人の相続人が多額の死亡保険金を取得しているなど、不公平に感じるときは、一度弁護士にご相談されることをおすすめします。
(勝本)