2018年10月19日(金)
夫婦間での住居の贈与が特別受益の対象外に
1 遺産分割規定の相続法改正
相続法改正で,遺産分割に関する見直しが行われました。
今回は,遺産分割に関する見直しのひとつである,「婚姻期間20年以上の夫婦間での住居の遺贈・贈与は特別受益の対象外になったこと」について説明いたします。
これも,居住権と同様に,配偶者保護のための方策のひとつということができます。
被相続人から居住用建物等をもらった場合に,遺産分割時にカウントしない(持戻し免除の意思表示の推定)というものです。
2 要件・効果・趣旨
要件は,次のとおりです。
1 婚姻期間が20年以上である夫婦の一方配偶者が,
2 他方配偶者に対し,その居住用建物又はその敷地(居住用不 動産)を遺贈又は贈与した場合です。
効果は,民法第903条第3項の持戻しの免除の意思表示があったものと推定し,遺産分割においては,原則として当該居住用不動産の持戻し計算を不要とするものです。すなわち,当該居住用不動産の価額を特別受益として扱わずに計算をすることができます。
その趣旨は,長期間婚姻している夫婦間で行った居住用不動産の贈与等を保護するためです。
配偶者は,より多くの財産を取得することができるので, 贈与等の趣旨に沿った遺産の分割が可能となります。
3 事例
これを事例で考えてみましょう。
(事例)
相続人
配偶者と子2名(長男と長女)
遺 産
居住用不動産(持分2分の1) 2000万円(評価額)
預金 6000万円
生前贈与
居住用不動産(持分2分の1)2000万円(評価額。すでに配偶者に生前贈与済み)
この場合,配偶者は生前贈与があるので,遺産の先渡しを受けたものと取り扱われます。これを遺産分割の時に計算することを特別受益といいます。
すなわち,配偶者の取り分を計算する時には,生前贈与分 についても,相続財産とみなされるため, (8000万+2000万)×1/2―2000万 =3000万円,となります。法定相続分に従えば,残りの3000万円を預金で受け取り,配偶者の最終的な取得額は, 3000万+2000万=5000万円となります。
結局,計算の上では,贈与があった場合とそうでなかった場合とで,最終的な取得額に差異がないことになります。
贈与がなかった場合は,遺産が1億円であり,その半分を取得できるからです。
しかし,改正法により,生前贈与分について相続財産とみなす必要がなくなる結果,配偶者の遺産分割における取得額は, 8000万×1/2=4000万円,となります。
したがって, 4000万円を受け取ることができ,最終的な取得額は,4000万+2000万=6000万円 となります。この事例の場合は,4000万円分の受取は,居住用不動産の残り2分の1と預金2000万円にするか,預金だけ4000万円分にするかなど,選ぶことができます。
このように,贈与がなかったとした場合に行う遺産分割の場合は,最終的には,より多くの財産を最終的に取得できることになります。
(以上)