2017年7月18日(火)
共同相続した預貯金債権の遺産分割
1 平成28年12月19日判例
最高裁判例の変更があり,遺産分割調停・審判において,預貯金債権が遺産分割の対象となることは,預貯金も遺産分割の対象になるで説明しました。
今回,日弁連の発行する雑誌で特集が組まれたので,再度,この影響について考えてみましょう。
平成28年12月19日,預貯金も遺産分割の対象となるとの最高裁決定が出ました。
これまで,判例では,預貯金は遺産分割(調停・審判を想定してください)の対象とならないとされてきました。
すなわち,以前は,「当然分割」といって,話し合いをしなくても共同相続人間各自の持ち分(法定相続分)に応じて,銀行に対して,自己の相続分の払戻請求ができました。
2 預金債権を当然分割することのメリット・デメリット
分割協議の話がまとまらないで時間がかかってしまう場合が多くあることから,当然分割によれば,自己の持ち分の預金だけでも早期に取得できたので,これはひとつのメリットでした。
逆に,従来の場合(1)特別受益があった場合などの審判で,預貯金だけ当然分割となると公平な審判ができない,(2)先に分割されて払い戻されてしまうと公平な遺産分割の調整弁としての役割が果たせない(ほかに分けられない不動産しかない場合など),などのデメリットがありました。
今回の決定で,当然分割とはならなくなったので,これらのデメリットは解消されました。
3 実務上の注意点
ほかに,実務上の注意点をまとめます。
(1)仮払いの必要性
当然分割とはならないとすると,遺産分割の協議は時間がかかるが遺産管理費用や葬儀費用,相続税支払いなど,出費が迫られたときに,どうしたら良いのでしょうか。
ひとつは,一部分割の合意をすることが可能であれば,預金の一部についてだけ合意するという方法があります。
それもできなければ,仮分割の仮処分の申し立てという制度があり,これを家庭裁判所に申し立てることになります。
なお,銀行自身も,このようなニーズに応えた仮払いの制度を導入しているところもあるようです。
判例が変更されたことによって,遺言書の記載の中に預金債権を特定して処分しておかないと,遺産分割の対象となってしまいますので,遺言書作成の際,注意が必要になりました。
(2)合意の重要性
また,遺言がない場合は,預貯金債権の取得について,協議が絶対に必要になりましたので,これまで以上に,共同相続人間の合意が重要になります。
適切な協議が難しいと考えるなら,やはり遺言を作成する必要があるでしょう。
(関口)