2017年5月12日(金)
遺留分の放棄
1.遺留分減殺請求権をきっかけとする紛争
例えば、父親が唯一の財産である店舗を、子である長男と次男のうち長男に継がせたいとします(相続人はこの2人のみ)。この場合、単に長男に相続させたい旨の遺言を作成するだけでは、次男から遺留分減殺請求を受け、紛争が生じてしまう可能性があります。遺留分につきましては、こちらの記事(遺留分とは?)をご覧ください。
長男と次男との間の紛争を避けるための方法として、直接口頭であるいは遺言の中で、なぜ店舗を長男に相続させたいのか、その理由を次男にしっかり説明しておくことが考えられます。これによって、次男からの遺留分減殺請求が抑止されることを一定程度期待できるでしょう。ただし、最終的に遺留分減殺請求権を行使するか否かは次男の判断に委ねられてしまうため、店舗を巡る紛争を確実に防げるとはいえません。
2.遺留分の放棄
では、より確実に長男だけに店舗を相続させたい場合、どのような方法があり得るのでしょうか。これが遺留分の放棄という手続きになります。つまり、遺留分という権利を予め放棄しておいてもらうのです。
相続開始前における遺留分の放棄については、家庭裁判所に許可の申立てをし、その許可を受けたときに限り、その効力が生じるとされています(民法1043条1項)。その結果、相続開始後の遺留分減殺請求権の行使ができなくなります。
許可の申立てを受けた家庭裁判所は、申立てが遺留分権利者の自由意志に基づくものであるのかどうか、放棄の理由に合理性・必要性が認められるのかどうか、放棄に代償性が認められるのかどうかなどを考慮して、許可あるいは却下の審判をします。
なぜ、このように慎重な手続きが要求されているのかというと、親の権威によって意思を抑圧され、遺留分権利者の利益を不当に害するおそれがあるからです。つまり、遺留分権利者(本件でいえば次男)が、本当は放棄をしたくないのに、無理矢理放棄をさせられているのではないかということを確認する必要があるということです。
3.遺留分の放棄と相続の放棄は別
遺留分の放棄がなされていたとしても、相続には影響しません。遺留分の放棄と相続の放棄は別のものです。つまり、本人(被相続人)が、遺言を残さないまま亡くなった場合、相続人が遺留分を放棄していても、その相続人は法定相続分通りに遺産を相続することになります。
上記の事案でいえば、次男が家庭裁判所の許可を得て遺留分の放棄をしていたとしても、父親が遺言を作成する前に亡くなってしまった場合には、結局店舗は長男と次男で2分の1ずつの割合で相続することになってしまうということです。
以上のように、確実に特定の相続人に遺産を相続させたい場合などには、遺留分の放棄という手続きを検討してみてください。
(勝本)