2016年12月22日(木)
預貯金も遺産分割の対象になる
1 平成28年12月19日最高裁決定
平成28年12月19日,預貯金も遺産分割の対象となるとの最高裁決定が出ました。
これまで,判例では,預貯金は遺産分割の対象とならないとされてきたので,判例変更となります。
今回の事案は,預貯金の遺産分割が争いになった審判で,一方が多額の生前贈与を受けていた事案です。
原審までは,これまでの判例に従い,預貯金は遺産分割審判の対象とならないとされましたが,最高裁は預貯金が遺産分割審判の対象となるとして,審理を2審の大阪高裁に差し戻しました。
2 これまでの預貯金の扱い
これまでは,預貯金は可分債権(分けられる債権)であり,相続発生により,当然に共同相続人間に相続分に応じて分割されて単独債権となり,共有関係に立たない,とされてきました。
相続の法律実務に携わる者にとっては,常識ともいえる有名な話でした。
なお,銀行と相続人との関係でいえば,このことから,法律上,相続人は法定相続分の支払いを単独で請求することができる(遺産分割協議は必要ない)とされていました。
しかし,銀行からは,遺産分割協議書や相続人全員の同意などを求められることが実際には多かったと思われます。
そして,わかりにくいことに,郵便局の定額貯金,投資信託,国債,株式,金銭は当然分割とはならず,遺産分割手続きによって分割される,とされています。
そこで,これらと通常の預貯金で扱いが異なるのが不自然・不便である,なぜ異なるのか,わかりにくい,などの批判がありました。
しかし,原則としては,預貯金は遺産分割の対象とはならないものの,協議・調停の場では,共同相続人の合意があれば,遺産分割の対象とすることが可能です。
そこで,実務上は,預貯金を含めて遺産分割協議,調停を行うのが一般的でした。
ただし,預貯金を遺産分割の対象とすることに合意しないまま調停が成立せずに終わり,審判になった場合には,預貯金は遺産分割審判の対象にならない,ということだったのです。
3 今後の影響
今後は,本決定の事案のように,審判になった場合にも,預貯金が遺産分割の対象となるので,特別受益があった場合などは,特別受益を考慮した預貯金の分割が可能となり,公平な審判が期待できることになります。
また,銀行実務においては,これまでよりいっそう,遺産分割協議書がなければ,払い戻しには応じないということなりそうです。
重要な決定なので,預貯金の扱いについては,今後の法改正や実務の動きを注視していきたいと思います。
(関口)